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トラック×鉄道×船のモーダルシフトは、1990年にすら機能しきれなかった──業界有識者が語る、2024年問題の唯一の解決策とは

経営/コーポレート

2024年、運送会社に求められるのは「維持ではなく、今以上」

──「2024年物流問題」では、2024年4月施行の働き方改革関連法により時間外労働が960時間(年間)に規制されることから、配送遅延などの影響が予想されています。株式会社タカネットサービス(以下、タカネットサービス)はトラック車両を軸とした様々な事業を展開していますが、この規制に際して特に大きな影響を受けるのは、運送業界のどの領域なのでしょうか。

タカネットサービス 代表取締役社長 西口高生(以下、西口):規制の影響を大きく受けるのは、長距離運送でしょう。例えば、東京と大阪の区間をドライバーは月間で約10往復しています。それが規制により、最大でも7往復になる。1人のドライバーの生産性が3往復ほど落ちるわけです。運行の実績に応じて計算する制度では、賃金低下に繋がります。現在、運送会社が運賃の値上げを要求するのにはこういった背景があります。

ただ、値上げが達成しても、運行便数が減ることには変わりません。その穴埋めのためにもドライバーを増やす必要がありますが、「今より20%以上増やせるほど魅力的な企業になれるのか」というのが運送会社が持つ悩みです。現状維持ではなく、今以上に増やさないと物流ニーズには応えられないんです。

運送関係団体も動き始めています。運転業務はまだ外国人労働者には雇用解放がされていないため、政府に対して門戸開放を陳情しているんです。ただ、これが2024年3月までに実現するかというと非常に難しいでしょう。


──現在、運送会社の賃金体系は運行距離と回数に従量制で組まれているケースが多いと聞きますが、この基準が見直される可能性はあるのでしょうか。

西口:賃金制度の見直しは必須ですが、従量制以外の形にするのは難しいでしょう。定額制は一定の帰属的な勤務年数があればこそ機能しますが、運送業界は離職率が11.5%と高い傾向にあります(厚生労働省「令和3年 雇用動向調査結果の概要」より)。転職率の高い業界で社員が満足する給料を実現するためには、従量制でないと難しいんです。

2018年には「貨物自動車運送事業法」が改正され、トラック運送事業者の標準的な運賃の告示が行われました。ところが、それよりも低い運賃が設定されているのが実態です。本当であれば、タクシーと同じようにメーター制を導入するのがフェアだと思います。そうすれば運賃のダンピングも起きなくなりますからね。国土交通省も諮問機関を作りメーター制の意見提議を行っていますが、実現していない。もし導入が決まったとしても、2024年までの解決は現実的ではないでしょう。


トラック×鉄道×船。モーダルシフトは、1990年にすら機能しきれなかった

※画像:PAXTAより※

──2024年物流問題に対する解決策として、貨物を積んだトラックごと船のコンテナに入れて運ぶRORO船なども積極的な検討が始まっています。西口:トラックと鉄道、そして船。この3つを連携した物流制度は「モーダルシフト」と呼ばれています。実は1990年、物流二法と呼ばれる「貨物自動車運送事業法」「貨物運送取扱事業法」によって運送業の規制緩和がされたときにも同じ提案がされていました。当時は「翌日配送」が当たり前の時代ではなかったのに、運送スピードが遅く機能しきれなかったんです。それがコロナ禍を経た今日のニーズに応えられるかというと、やはり現実的ではありません。

例えばJR貨物は、電気で動くのでCO2も発生せずエコ視点では最適な輸送スタイルです。ただし、東海道線の夜に空いている時間しか使えないため、やはり遅い。そもそもJR貨物は、旅客各社が持ってる線路の隙間を使う事業です。日本の大動脈と呼ばれる、東京・大阪間のJR新幹線の線路は東海旅客鉄道株式会社(以下、JR東海)が所有しています。

「夜間、使用されていない新幹線の線路を何十往復もすれば、仕分け時間も回収できる速さでCO2削減にもなる」とは、誰もが考えることだと思います。ところが、JR東海はJR貨物に夜の新幹線の線路を貸さない、貸せないんですね。理由は、夜の最終新幹線が出た後に行う保線が事業の肝だからです。そのため、東海道新幹線は1964年の開業以来、一度も大きな事故を起こしていません。

ご存知のように、JRはもともと国鉄で、政府が旅客事業を分割民営化した組織です。本当であれば政府の働きかけなどあればよいのですが、分割民営化のルールによって、なかなか実現できません。リニア中央新幹線が開通すれば、東海道新幹線の本数も間引かれるはずなので可能性が出てきますが、2024年までの解決には程遠いのが現状です。

そもそも日本の物流の90%はトラックが担っています。細長い国土の中で、翌日配送のニーズを満たすにはトラックで荷主のところから瞬時に運ぶしかない、というのが現実なんです。


目前にる2024年、唯一の解決策は「通告制度」の導入である

──民間事業者の対症療法にある限界がはっきりと見えている状況ですが、2024年4月までの間に本当に機能する解決策として何が考えられますか?

西口:通告制度を導入する施策ではないでしょうか。例えば、政府がガイドラインとなる運賃を提示し、行政指導できるという条例を決めれば、2024年物流問題はギリギリで改善されると思います。BtoBであれば訴えた相手の推測がつきやすいため、報復的な措置のリスクはあるものの、「荷主側が秘匿で訴えられる」状況により、適正な運賃改正への圧力をかけられるでしょう。

──最後に、運送業界に迫る苦境を乗り越えるために新しく提供開始したというサービスについてお話しください。

西口:現在、運送会社の経営は非常に厳しい環境にあります。燃料も人件費も高止まりしながら運賃は維持する必要がある。かつ、新型コロナウイルス禍で売り上げが減った企業に融資された「ゼロゼロ融資」の償還日が迫る。そこに2024年物流問題が覆い被さってくる。この窮地を乗り切れなければ倒産・廃業となる「今、まさにキャッシュが必要」という企業が多いんです。

そこで提供を開始したのが。運送会社の唯一の資産であるトラックを動産担保にとるリースバック商品「CASHdeスグのり」です。車両売却により資金を得られ、リース契約を結ぶことで引き続き同じ車両に乗り続けることができます。僕たちのビジネスモデルと運送会社の経営支援を融合させた商品が、ありがたいことに今、ヒットしているんです。

株式会社東京商工リサーチの調査によると、2023年上半期時点で、道路貨物運送業の上半期の倒産は3年連続で増加しています。運送業界が今、辛い状況にあることは間違いありません。ただ、全産業のセグメントを見ると、アフターコロナの今、相当なバブルになってるのは確かです。「CASHdeスグのり」は窮地を乗り越える一策ですが、この苦境を超えた先で、物流業界全体が健全なかたちに是正されることを願っています。


<引用文献>

令和3年雇用動向調査結果の概要(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/index.html

道路貨物運送業の上半期の倒産は3年連続で増加 「人手不足」・「物価高」関連倒産が急増(株式会社東京商工リサーチ)

https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197802_1527.html


<参考文献>

貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(平成30年法律第96号)について(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000084.html


企業HP:https://takanet-s.com/

トラックランド:https://truckland.jp/

投資deスグノリ:https://tns-investment.com/

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