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2024年物流問題とは「1990年物流問題」である──物流の専門家であるタカネットサービス代表に聞く、事の“真因”

経営/コーポレート

1990年、運送業界に過当競争をもたらした「物流二法」とは

──西口さんは、株式会社タカネットサービス(以下、タカネットサービス)の創業以前にも、物流専門紙の取締役を経てシンクタンクを設立するなど物流業界の先端に身を置き続けています。世間を賑わしている「2024年物流問題」について、発生の起源から解説をいただけますでしょうか。

タカネットサービス 代表取締役社長 西口高生(以下、西口):2024年物流問題の起源は、1990年にあると言えます。かつて、運送業は免許制でした。1990年12月1日、「貨物自動車運送事業法」「貨物運送取扱事業法」という2つの法律、いわゆる「物流二法」が当時の運輸省(現・国土交通省)によって施行され、運送業を許可制とする規制緩和が行われました。運賃も、それまでの認可運賃制から事前届出制に変更となりました。


物流二法の施行前は全国で約4万社の物流業者が登録されていましたが、許可制に変わったことで破竹の勢いで業者数が増え、約6万4千社にもなりました。また、それに伴いトラック車両も乗務員も増加しました。なぜ、この「物流二法」を施行する必要があったのかというと、その背景に昭和の高度成長期があります。バブル絶頂の頃、日本の血流である物流が車両とドライバー不足により滞っていたところを、新たに登記された2万の運送会社、ドライバー数にして約70万人がその滞りを解消させたんです。

2024年の労働法改正に伴い話題になっているのが、ドライバーの労務問題で2024年4月1日以降は、三六協定の締結を条件として、時間外労働時間が上限960時間/年間に制限されます。言い換えると、2024年物流問題は「“1990年の物流二法改正に伴う運送会社数の急増”を起因とする労務問題の是正である」という構造だと説明できます。


──運送会社数の急増によって、なぜ労務問題がここまで深刻になったのでしょうか。

西口:過当競争が始まり、運賃が下がり乗務員の賃金も下がるという負のスパイラルが起きたからです。運送会社のドライバーは、かつて花形の“稼げる”職種でした。ところが、物流二法の施行によりドライバー人口が劇的に増えた。前述のとおり、日本のバブルにあった物流増を支えたものの、1990年から現在まで、賃金は物価上昇率と反比例して下がっています。過当競争で下がった賃金を、運送会社は労働時間を増やすことで穴埋めしていった。その労働時間を政府が規制しようとしているわけです。


“四重苦“に見舞われる2024年の物流業界。その影響は「配送遅延」に留まらない

──賃金が下がってきた一方で、コロナ禍を経てネット通販が台頭したことにより宅配や運送のニーズはますます高まっています。

西口:ECが台頭することにより、翌日配送が当たり前になりました。注文当日に届く

サービスすら存在しています。大量輸送ではなく、小ロット・多頻度の輸送ニーズが高まっている。現在の運送会社のドライバー数は84万人と言われていますが、現在の日本のマーケットが求めるドライバーは100万人。20万人も不足しています。ドライバー人材の不足から一人ひとりの勤務時間が長くなっている状況があります。

それを是正するための労働法改正なわけですが、この施行による影響を押し並べて考えていくと、来年の4月の施行後にはネット通販の「翌日配送」が実現しなくなる可能性が高い。既に大手の宅配向け物流会社は東京発、九州着のような遠隔地区への翌日配送は取りやめています。早くも、一般家庭への影響がひたひたと出だしているんです。


──ドライバー不足の問題は、BtoCのみならずBtoBにも影響をもたらしていると聞きます。

西口:まさしくBtoCとBtoBの事業者の間で、ドライバーの取り合いになっています。日本の物流の90%はトラックとドライバーが運んでいますが、やはりBtoB向けの労働人口が大きく圧迫されているのもあり、例えば建設や医療などの、企業向けやインフラストラクチャーに関する物流もタイトな状況になっていることは否めません。


──ドライバー不足が深刻化している現在ではありますが、御社はトラック車両を軸とした様々な事業を展開しています。2024年物流問題について、車両についてはどのような状況にあるのでしょうか。

西口:コロナ禍の最中、世界的な半導体不足が起きていたことは記憶に新しいと思います。それに伴い、新車の納車遅延問題も叫ばれていました。今、アフターコロナの状態になっても、物流に使うトラックの納車遅延問題は依然として残っています。

ここで触れておくべきは、日本国内のトラック市場においては、他国とは異なるイレギュラーな問題があることです。2022年3月に報道された、トップメーカーであった日野自動車のエンジン認証不正問題ですね。これによって、トラックの生産が一時的にストップしました。その影響から、残り3社の主要メーカーの納期も非常に遅くなっています。ドライバーも足りない、クルマも来ない。クルマを探し求めて中古車マーケットがオーバーヒートする社会現象にもなっています。 


──過当競争から来る低賃金に加え、人材不足にクルマ不足。そして2024年の労働法改正。“四重苦”の状態にあるのが今の運送業界なのですね。

免許制の事業を開放した政府の協力も必至である

西口:労働時間を年間960時間に規制すること自体は正しいと思います。良くないのは、それに賃金の減少を伴うことです。これら四重苦の根本的な原因を探ろうとすると、やはり1990年の物流二法に行き着くわけです。

事業者からすると、政府による門戸開放に起因した問題を、これまた政府による労働規制で是正しようとしている──ように見えます。僕たち物流業界の人間としては、業者数を再び規制しても良いのではないか、と思います。でも、政府としては一度開放した門戸を再び閉じるのは難しいのでしょう。

マスコミの報道には、2024年物流問題は運送会社が解決すべきだとする傾向があります。ですが、免許制の事業を政府も解決に向けて協力の姿勢をとるべきだと思います。例えば鉄道によるコンテナ輸送や船によるトラック輸送など、運送会社はさまざまな解決策を求められています。ですが、原因の根深さゆえに、事業者による対処療法では手に負えないものがあるのです。

対処療法にある限界とは何か、そして2024年に向けて物流業界はどのように変化すべきなのか。この続きは、次回のインタビューで詳しくお話しします。

<参考文献>
基礎知識から最新動向まで1冊でまるごとわかる! 新しい「物流」の教科書(湯浅 和夫、2014年、PHP研究所)物流二法制定(平成元年)(社団法人東京都トラック協会)
https://www.totokyo.or.jp/archives/8809
エンジン認証に関する当社の不正行為について(2022年3月4日、日野自動車プレスリリース)
https://www.hino.co.jp/corp/news/assets/1e2b03e47e24f9ab3141eed3c07cabfe.pdf

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